ゼミグループ①文献講読2

横地 清・菊池 乙夫 著 「中学校数学+総合学習1 数学を中心のする総合学習の展開」

⑴彫刻の森美術館を訪れて

○教科の隔壁をはずそう

https://www.tokyoartbeat.com/venue/A575A177


筆者は箱根にある彫刻の森美術館を訪れる。日本初の野外美術館であり、芝生に彫刻を配置した彫刻庭園の形をとっている

https://pichori.net/Travel/13/hakone_open_air_museum8.html
「交差する空間構造」

ダイヤモンドの分子構造を母体として、4本の手足を持つ炭素原子を人体に置き換えて構成されている。

https://www.hakone-oam.or.jp/permanent/?id=14

「球形のテーマ」

 ステンレス・スチールで作られた作品で、全体としては球形になっているが、円の中心部分には緻密に計算された無数の弦が張り巡らされている。最も基本的な形の一つである球形が、細かな弦や面により構成されているため、見る人の目の位置によって様々に表情を変化させる。

これらは厚みのない広がりだけの曲面ではない。内側に厚みを持った曲面体である。内側に厚みを持った曲面体、つまり外側を曲面で被った立体ならば、リンゴや馬、象よりも、人体の方が良いだろう。人体ならば、怒りや悲しみ喜びなどの感情や精神までも表現できるため、彫刻の対象とされるのは当然である。

https://www.hakone-oam.or.jp/permanent/?id=4

「母と子」 ファミリーグループ

 この作品の作者ムーアが父親になった時の自身の経験が反映されている。流れるような曲線を描く両親の腕が子供を中心に結び合わされ、家族の絆や小さな命を愛おしむ姿から人間愛を感じることができる作品である。

⑵ 校外学習として彫刻の森を訪れた小・中学生の様子 ~活動あって学びなし~

校外学習で彫刻の森を訪れた児童・生徒たちの様子を見ていた筆者。

しかし、児童・生徒たちは場内での自由見学の時間になると、騒ぎ出したりかけっこを始めてしまった。

※イメージ

このような事態になってしまった原因について、児童にのみ問題があるわけではなく、数学教育の内容に原因があると筆者は述べる。

今回において、児童たちが彫刻に興味を示さなかったことについて言えば、数学教育で幾何学の学習をほとんど実施していないことだ。

以下に示すのは、小学校6年間の算数で扱う領域の時間の割合をグラフ化したものである。

2020年度後期算数科教育法 講義資料より引用

幾何学と関連があるといえる図形の領域を扱う時間の割合が、低学年を中心に低いことが分かる。

このことより、日頃学校で取り組んでいる学習の内容が、校外学習での学習内容とあまり一致せず、子供たちが興味や関心を見出すことができなかったと捉えることもできる。

○筆者が具体例として取り上げている「球面の幾何学」について紹介

球面の幾何学では、球面上に三角形を描くと、平面上での三角形の性質とは異なる。

引用元:http://hooktail.sub.jp/vectoranalysis/SphereTriangle/ 

平面上では三角形の内角の和は、180度になるが、球面上であると180度以上900度以下になる。

また、球面上では平行な直線は存在しないことや、必ず二点で交わるという性質もある。

※球面幾何学では、球の大円(球面を中心を通る平面で切ったときにできる切り口の円)を直線と定義する。

(3)世田谷美術館での体験

次に著者は世田谷美術館での体験を述べる。そこで「ヨセフの物語」という彫刻に触れる。「ヨセフの物語」の彫刻とは、フィレンツェの洗礼堂の扉に彫られた12枚の旧約聖書の物語の1枚である。その門はミケランジェロにより天国の門とも呼ばれる。

「ヨセフの物語」の彫刻には、当時確立されたばかりの数学的遠近法が用いられている。例えば右上はヨセフが兄弟に奴隷として売られる場面、中央は大飢饉に備えヨセフか人々に食料を備蓄することを説明している場面である。遠近法により、1枚のパネルに複数場面が盛り込まれ、ストーリーが表されてる。

著者はこのような世界的に数学的遠近法の最も代表的な彫刻が展示されているのに、見学者の小中高生から誰も数学的遠近法や消点を口にしないことに苦言を呈する。数学的遠近法が文化から切り離された知識材や技能材でしかないことを改めて強調する。数学教育と芸術教育の教師が、教科の枠を外し、協力して今回の展示を契機に数学的遠近法を中心とする総合教育を展開すべきだと指摘する。

【参考文献】

・フィレンツェ.net/AZU/「フィレンツェのサン・ジョヴァンニ洗礼堂、見どころ全部お伝えします!」/最終閲覧日2021年8月31日

・凡声庵閑話:南正邦の覚え書き/南正邦/「イタリア彫刻家11:ロレンツォ・ギベルティ1」/最終閲覧日2021年8月31日

https://plaza.rakuten.co.jp/masakuni/diary/201912050000/

(4)数学的遠近法の総合学習

・「イタリアに華咲いたルネサンス」

ルネサンス以前の中世の絵画はキリスト教絵画や装飾写本が中心であり、形式が決められていた。人物は平面的で無表情な顔つきをしていた。建築物は平面的で人物は宙に浮いた状態であった。ルネサンス期になると、人物は写実的で表情が豊かになり、空間との関係性も構築された。このようなルネサンスの絵画を革新した背景の1つに「遠近法」という技術革新の発見があった。 

引用資料:ルネサンス絵画の3つの特徴とそれを支えた4つの技術革新 – 新・ノラの絵画の時間 (nohra.tokyo)

・「数学的遠近法」の使用

「フィレンツェの全景」

引用写真: フィレンツェの大聖堂 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp)

「天国の門」の修復前のノア

引用資料: 『フィレンツェカードを買って街歩き その?』フィレンツェ(イタリア)の旅行記・ブログ by ゆーりはまーさん【フォートラベル】 (4travel.jp)

「修復されたモーゼ」

引用資料: 『イタリアで観光&バードウォッチング [2012](11) フィレンツェ編(2) 』フィレンツェ(イタリア)の旅行記・ブログ by 潮来メジロさん【フォートラベル】 (4travel.jp)

完全な数学的遠近法「アテネの学校」

引用資料:中学校数学+総合学習1 数学を中心とする総合学習の発展 

2011年11月初版刊 著者:横地清,菊池乙夫

ダビンチの「受胎告知」

引用資料: レオナルド ダ ヴィンチ展☆ | ∞最前線 通信 (ameblo.jp)

ダビンチの「受胎告知」の消失点は海岸にある。数学的遠近法の絵は、遠くの景色をも取り込んで3次元空間を2次元の画面に収める。これこそが数学的遠近法の特徴であり、ルネサンスの思想であると筆者(横地、菊池)は述べる。

〈彫刻による曲面美の表現〉

ミケランジェロの「昼と夜」

引用資料:中学校数学+総合学習1 数学を中心とする総合学習の発展 

2011年11月初版刊 著者:横地清,菊池乙夫

ミケランジェロの「昼と夜」

引用資料:中学校数学+総合学習1 数学を中心とする総合学習の発展 

2011年11月初版刊 著者:横地清,菊池乙夫

ミケランジェロの「ダビデ」

引用資料:中学校数学+総合学習1 数学を中心とする総合学習の発展 

2011年11月初版刊 著者:横地清,菊池乙夫

彫刻であるミケランジェロの「昼と夜」、ミケランジェロの「ダビデ」は曲面美の表現が素晴らしいと筆者(横地、菊池)は述べる。加えて、曲面美の表現が精神と感情まで込めた曲面体としての人体に向くのは当然であると述べる。

 筆者(横地、菊池)は、Albrecht Durer によってこそ数学的遠近法と人体比例論が理論的に集約されたと述べる。人体比例論とは、“理想の人体美を客観的に規定し、また実際に表現するべく追究される営為のことである。理論家たちは「比」-すなわち、全体に対する部分の、部分に対する部分の数学的関係-という形式を用いることによって人体美の「規準」

として確立しようと試みてきた。”

引用資料: ヨーロッパにおける人体比例論の系譜-数学的知の展開からの一試験- 

著者:中村朋子 _pdf (jst.go.jp)

https://plaza.rakuten.co.jp/masakuni/diary/201912050000/

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