2.「課題学習」の資料として
「課題学習」を構成する資料として、3つの事例を提示する。
①遠近法と比例/情報化社会を活用しよう
・情報化社会の発展は各方面にわたって、私達に大きな影響を及ぼしている。テレビ、video、漫画雑誌、国際的文化展等々、街には情報があふれている。うっかりしていると、情報の渦の中で右往左往し、自分を見失うことになる。この状況の中で自分の立場を維持し、情報化社会を活用して逞しく生きることが重要である。
以下では頻繁に開催される国際的文化展の活用について述べる。
⑴アルプレヒト・デューラー

ニュールンベルク(中世の大都市)で生まれ、ニュールンベルクを中心に活躍した偉大な画家である。とりわけ、銅版画や木版画では多くの優れた作品を残している。
引用文献:ウィキペディア
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/アルブレヒト・デューラー
※銅版画→版材に圧延される銅の板を使用し、「彫る」「腐蝕する」などの物理的処理を加えて凹部を作り、そこにインクを詰めプレス機で圧力を加え刷ることで、インクを版から紙へ転写する技法です。
引用文献:造形ファイル
銅版画
※木版画→ 木製の原版によって制作される凸版画。
引用文献:ウィキペディア
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/木版画
・デューラーは1494年と1505年の2回、ルネッサンスの芸術の発祥地、イタリアを訪問し、絵画の研究を行った。特に数学に関係するものとして、次の2つの研究が重要である。いずれも、ルネッサンスにおける絵画の主要な課題であり、それを解決してまとめたものである。
その1つは人体について、その構図を比例的に捉える研究である。デューラーは多くの男女を観察し、体格ごとに、人体各部分の大きさの割合を明らかにした。
⑵人体比例に関する研究
写真はデューラーの「人体比例に関する四書」から取ったものである。

引用文献:新・ノラの絵画の時間
・ある体格の男性について、身長を1としたときの各部分の長さの比についてを表したものである。
比を単位分数で求め、その単位分数を分母で表現している。(各部位に記してある数字を分母にして、分子を1としている)
例えばおでこから後頭部までの水平距離は14分の1ないし15分の1。肘から指先までの長さは4分の1、手首から指先までの長さは10分の1とある。
体の側面で、腕の付け根あたりに13分の2とあるが、これは2分の13、つまり6.5を分母とする単位分数である。即ち腕の付け根は6.5センチであることを示している。
他にも腕の側面の肩の部分に21分の2とある。これも同様に2分の21とすると、15.5と表すことができる。つまりこの図での肩の長さは15.5センチと言える。
・この写真は1496年の男湯の木版画であり、イタリアからの帰国直後の作品と見られる。まだ人体比例に関する研究は進んでいないが、イタリアで刺激を受けた人体表現に関する強い関心が、この木版画に現れている。

17ページ図6
・人体比例に関して、レオナルド・ダヴィンチの「ウィトルウィウス人体図」がある。

引用文献:image navi
https://imagenavi.jp/search/detail.asp?id=51304920
ウィトルウィウスとは古代ローマ時代の建築家である。「人体の中心は宇宙の中心である。神殿建築も人体と同様に調和したものであるべきだ」と言い残している。つまり人の体には色々な箇所があり、調和のとれた比率で構成されている、ということだ。
(例)・手を横に伸ばした長さと身長は同じ
・顎から額までの長さは手の長さと同じ
そしてこの考えに影響を受けたダヴィンチは「ウィトルウィウス人体図」を描く。この絵の特徴は2つある。
・へそを中心として、足の先までを半径とする円を描くと、両手がその円と接する箇所がある
・両手を真横に伸ばした長さは身長と同じであり、正方形を描くことができる
というように、人体の特徴により円や正方形などの数学で取り扱う形に沿っていることを示した。
・またこの人体図には黄金比が隠されている。
黄金比とは人間の目で見て気持ちよく感じる比率のことだ。
(例)パルテノン神殿、ポスター、台風、カタツムリ。
黄金比は、1 : 1.618である。
引用文献:Next Humanity
https://takchance.tokyo/2018/11/homo-vitruvianus/
⑶遠近法に関する研究
デューラーの遠近法に関する著書、「コンパスと定規による測定法教本」の第2版本に付された、遠近法の描き方を示す木版画である。
これ以上説明の必要もない程に、遠近法による表現方法が描き出されている。写真の上半では消失点が画家の背後に取られている。下半では消失点が画家の目にある。

引用文献:Atelier LA PORTE Blog
http://atelierlaporte.blogspot.com/2015/08/blog-post.html
・銅版画の「メランコリア」、「書斎の聖ヒェロニムス」である。「メランコリア」では左上の光の中心が消失点となっている。「書斎の聖ヒェロニムス」では右の椅子の背の右上が消失点となっている。

引用文献:Ameba
https://gamp.ameblo.jp/6981313/entry-10275225159.html

引用文献:MUSEY
・上の2枚は一点透視法が用いられている。一点透視法とは1つの消失点に向かって線が集まっていくことである。
遠近法に関してダヴィンチも同様に研究し、活用している。ダヴィンチは「モナ・リザ」の絵に空気遠近法を用いている。これは遠くにあるものがかすかにぼやけ、やや青白いというものである。青白さの理由は、自然科学の原理を用いているからである。
「空気に含まれている水蒸気」
「粒子にあたる光の反射」など、科学的視点に基づいている。

引用文献:ニコニコ大百科
https://dic.nicovideo.jp/t/a/%E3%83%A2%E3%83%8A%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%82%B6
引用文献:BLANKCOIN
コロコロのアート
・プリントの資料に関連づけて、レオナルド・ダヴィンチについて調べた。彼は素晴らしいアートを創るという目的のために、数学的視点、物理的視点から様々なことを研究した。即ち現在の学校教育におけるSTEAM教育のようなことを、ダヴィンチは何百年も前から実践しており、それが天才と言われる所以の1つなのかもしれない。
人体比例は算数の学習において、一人一人の人体比例を設計するという目的で行うことも考えられる。一人一人身長や体格も違うので答えはバラバラになり、自分で答えを導かせなくる学習になる。同じ問題をみんなと一緒にやるという学習とは異なり、モチベーションも変わるかもしれない。また実際に定規などで様々な箇所を測るなど、身体の動きを伴う学習にもなり得る。
遠近法は図工で絵を描く際に用いることが出来る。単に「絵を描いてください」と指示するのではなく、遠近法を教えみんなで学び遠近法を用いた簡単な絵を描くことで、アートの世界が拡がる。今後絵を描く際にも用いる技法の一つをストックすることが出来る。
⑷国際的文化展を活用しよう
情報化社会が進展している今日、日本で頻繁に開催される国際的文化展を活用すれば、絵画に限らず広い分野にわたって、「課題学習」に生かせる豊富な素材が獲得できる。そして5年も文化展に通えば、それぞれの分野について、世界の一流品を素材とすることができる。