第II章 数学を中心とする総合学習の展開
〈総合学習の意義〉
前章で強調されたこと…
⑴人類が産み、人類が育てた文化としての数学の学習
⑵教科の隔壁にとらわれることなく、他教科の内容にも立ち入った学習
このような学習を小学校の総合学習のみでなく、中学校の総合学習でも実現するためには…
数学教育が総合学習に寄与するのではなく、数学教育それ自体が総合学習を取り込んで展開するのが本来の姿である。
中学生の場合には、生徒一人一人の個性と関心に対応できる数学教育でなければならない。それに伴い、教師もまた一人一人の個性と関心に応じて数学教育の研究の継続が必要になる。
教師は検定教科書数学の追随者や解説者になってはならない。
〈数学を中心とする総合学習の目的と内容〉
①課題の内容は、他の課題の発見や解決にも通用するように、一般的な内容を選択する
②数学を中心に他教科の内容にも立ち入った学習をする
③発展した内容より、更に一段と深化した高度な内容を含むようにする
④数学や他教科の学習には、評価も設定し、一定水準以上の学力を保証する
⑤生徒は、個別的あるいはグループにおいて、各自の個性や関心を発揮して学習を進める。ありきたりの教師先行の伝達授業ではいけない
⑥生徒自身が課題を発見し、独創的な方法で課題を解決できるようにする
⑦総合学習の成果は、一般市民にも公開し、地域の文化の一環としていく
⑧必修数学を含む、更に一段と広範囲に及ぶ高度な内容である。
⑨数学を中心とする総合学習は、選択数学と共存、協力させていく。
<横断的な課題と関連して>
①国際理解/地球の数学
〇「国際社会」という言葉の変容
国際理解(教育) から 国際交流 のステージに移っていった。
・国際理解教育:世界の諸国民が国を超えて理解し合い、互いに人間として尊敬と信頼をもって協力し、世界の平和を実現することを理念とした教育。
・国際交流:人物や情報を積極的に交換する。
〇数学的課題としての地球
国際交流の基本となる数学的課題の一つは、国を問わず、等しく人類が住む地球についてを取り上げることが考えられる。
「地球の数学」の内容だが、様々なものが考えられる。著者がここで紹介している地球上の2地点の大圏距離を求めることのほかに、エラトステネスによる地球全周の測り方を再現する活動などが挙げられる。
このように、数学を用いて、理科的な要素や歴史的な側面を取り入れることによって、横断的な課題の設定を考えていく。
※番外編として、エラトステネスによる地球全周の測り方について紹介する。
エラトステネスというエジプトで活躍したギリシャ人の学者が紀元前、地球の全周を計る際に用いた手法。
シエネ(現・エジプト南部の都市アスワン)とアレクサンドリア(エジプト北部の都市)の距離と
シエネで太陽が南中しているとき、アレクサンドリアでは太陽が7,2度ずれていることを利用する。
①国際線の機内と理科年表から
著者が国際線の機内モニターと理科年表を利用した活動を取り入れている目的は、生徒に親近感を持たせるためであるとしている。
→理科的、社会的な側面を重視するならば、手作り地球儀を利用することより、既製の地球儀や、球面上の距離とは一時的に切り離して、地形や気候帯と関連させることを重視することも考えられると指摘したい。
続いて数学を中心とする総合学習の展開のために、三角関数・球の性質・直交座標系を学習する。
- 三角関数
- sinα,cosα,tanαの定義、角度の範囲は一般角とする。
②電卓による三角関数の値の求め方
- cos-1A,Aは-1から+1までとする。
B)球の性質
球については、次の公理を設けて定理を証明させる。
[公理1]交わる2直線は1平面を決定する。
[公理2]球の中心を通る平面と、球面との交線は大円である。
【定理1】球の中心をOとする。2つの任意の存在OP,OQがある。このとき、半径の端PQを通る大円がただ一つ存在する。ただし、3点POQは一直線上に無いとする。
【定理2】球O上に2点P,Qがある。2点P,Qを通る大圏距離は∠POQの大きさAで決められる。地球上で実際的にいえば、中心角1分の大圏距離が1.852kmであるから、中心角Aの単位を度とすれば、大圏距離は1.852×A×60kmとなる。
C)交座標系
直交座標系に関して次の定理を証明しておく。
※直交座標系=互いに直交するx軸y軸z軸の3軸から構成される座標系のこと。
上記の定理を使い、地球上の2点間の大圏距離を求める数学に進む。