AIは数学教育に役立つのか

最近,プログラミング教育について,ぼーっと考えることがよくあるのですが,新井紀子氏の著作をよく読むこともあって,AIは教育,特に小学校数学教育に役立つのか,懐疑的なこの頃です。

私の学部時代の先生は,当時prologの数学教育への利用に関する研究や大創玄というソフトを使ってエキスパートシステムをしていたので,私も近くで見聞きしていました。
また,私のゼミの同期生も卒業研究で取り組んでいたため私も一緒にやっていました。
すべて,人工知能研究の「走り」の時代です。
歴史的な区分で言えば,「第2次人工知能ブーム」の時のようです。
数学の証明問題に関するシステムを作っていたのではないかと思います。

約30年たった今,どうかというとどちらの言葉も見かけません。
私の先生も「研究もはやり廃りがある」と言っていたのをよく覚えていますが,その通りだと思います。

現在は第3次人工知能ブーム。
機械学習とディープラーニングが盛んです。
大手企業を中心に,AIが児童の学習履歴を解析して,より効率的な学習の道筋を指し示してくれる,例えば問題につまずけばどこに戻って勉強し直すとよいか,分からない問題があればより適切なヒントを与えてくれるような機能を持たせたものが出回っているようです。

しかし,そのような仕組みのものは,子どもの数学的思考や概念理解にはほとんど役に立たないことはよく分かります。
おそらく現在のそういったシステムの学習は,いわゆるドリル形式の学習の範疇では可能だと思います。
だいぶ昔に,そういった「ここを間違ったら個々に戻って問題を解く」みたいな研究をしていた先生がいました。AIならそれは可能でしょう。

しかし,これも先日数学教育の学会である先生が発表していました。
小学5年で学習する割合がテーマで,中高生に回答してもらったことろ,問題の解き方に関する方法が相当バラバラだということが分かりました。
「そんなの当たり前じゃないか。やり方なんていろいろあるだろ。」
と思うかもしれませんが,そこが実は問題です。

小学校では,そのようないろいろなやり方を教えてはいません。
大多数は,割合(比率)と実際の量が2本の数直線として並べて書いてあるものです。
実は,この理解のさせ方は分かりにくい,定着がしにくいと先生方からはあまり評判がよくないのですが,それを差し引いても,多くの中高生は学校で学んだ以外の考え方をいろいろ使って解いていることが分かりました。

問題は,「子どもの理解の仕方を1人1人どうやって拾い集めるか」ということです。
問題を解いた結果の数値(答)を見ただけでは,子どもがどこの部分で誤った考え方をしているのかは,読み取ることができません。


「問題を解くために考えた,絵や図を鉛筆で書かせればよい」と考えるかもしれませんが,それでも不十分です。
今年,私のゼミの4年生がそれに挑戦しましたが,描いてもらった絵や図を見てどこにつまずきがあるのかを判別することは容易ではありません。

しかもそれを,「理解する」方に持っていかなければならないと考えただけで途方に暮れてしまいます。

AIはビッグデータを解析することは得意ですが,データになっていないものは解析のしようがありません。
その手前の「データを収集する」段階ですでにつまずいています。

私が今のところ考えているのはこのぐらいまでですが,ドリル形式の問題を解いてAIに学習履歴を取らせても,子どもの伸びは大きくはありません。
数学的思考力や数学概念の獲得には,まだまだ人の手が必要だろうと思います。

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